訳あって10年近くクローズしていたアトリエを片付け始めました。リノベーションというわけにはいきませんが、少しは制作の意欲が湧くぐらいには戻したいと思っています。長らく物置代わりに使用していたので、大きな荷物は昨年既に処分し、年明けからはかつて絵画教室で使っていた教材や作品の残り、古くなって使えなくなった画材や不本意な油彩の旧作品などを大断捨離。燃やせるものは雪の庭でどんどん燃やします。まだまだ道半ばですが、冬の暇な時期に何とか終わらせたいと思っています。
そんな中で出てきたのがかつて集めたLPレコード。200枚以上はありそうです。一部は棚に、残りはテーブルに積み上げられ埃まみれになっていました。ビニールの保護袋は経年劣化で触るとバラバラと割れてしまうので、全て廃棄。ジャケットもだいぶ背焼けしていましたが、中身は無事のようです。オーディオ類もだいぶ古びていますが、カビの生えたターンテーブルにセットして針を落とすと、何とか鳴ってくれたので一安心です。
艶やかに光りながら回転する漆黒の円盤を眺めながら、かつて繰り返し聞いた音楽に耳を傾ければ、CDでは決して伝わらない柔らかく膨らみのある音の中に、様々な記憶と光景が複雑な喪失感とともに蘇ってきます。
フランソワーズ・アルディ、キースのケルンコンサート、グールドのゴールドベルク変奏曲。キースのケルンは学生時代にジャズ狂いの友人宅で何度も聞かされ、そこに集まっていた仲間が全員同じLPを買ったという、まあその当時のテーマ曲みたいなものです。グレン・グールドは今でも敬愛するピアニストで、このバッハのゴールドベルク変奏曲は多分初めて買ったグレンのレコード。この当時音楽の情報は全てラジオから得ていたので、そこで流れた曲のレコードを探していて、ジャケ買いでこれを選んだのか、既にグレンのことを知っていたのかは今となっては覚えていません。グレンは最晩年にも同じ曲をレコーディングしています。フランソワーズ・アルディは山梨に戻ってから中古で買ったものでしょうか。ジャケット写真がキュートでおしゃれです。
ビル・エバンス、パコ・デ・ルシア、マイルスのラウンドミッドナイト。珍しいグールドのオルガン曲。ジャズ狂いの友人はマイルスやコルトレーンの信奉者だったので、どちらかというとモダンからクロスオーバーまでヘビーな曲を随分聴かされましたが、自分で曲を選ぶようになってからは割とクールで乾いた感じのビル・エバンスが体質に合うようで何枚か集めた時期がありました。でもマイルスのモダン全盛の頃のアルバムはどれをとっても知的且つダークでパワフルという相反する要素が混在していて今聞いても素晴らしい曲ばかりです。ルイ・マルが監督した「死刑台のエレベーター」のテーマもアヴァンギャルドの映画を好んで見ていた時期があったせいか、外せない名曲ですね。パコ・デ・ルシアはアルディメオラが呼びかけて一時的に結成が繰り返されたスーパーギタートリオのアルバムを聴いて魅了されたギタリストです。彼が来日した際には六本木のピットインでライブを聴きました。その時はまさに目の前で、かなり強く張られたガットを弾くように鳴らす早弾きに、回りの観客とともに興奮しながら聞き入ったことを良く覚えています。
ハービー・ハンコック、チック・コリア、キース。どれもジャケットデザインがいいですね。くどいようですがこれら全てくだんの「ジャズ狂いの友人」宅で聞かされたものばかり。チック・コリアの「リターン・トゥ・エバー」は今も愛聴盤です。
バッハやモーツアルトの宗教曲も良く聞きました。ディヌ・リパッティのブザンソン・ラストコンサートも懐かしいもの。たしか病気で亡くなる直前に録音されたもので、ところどころ音楽が途絶えそうな箇所もあって、まさに最後の気力を振り絞っている様子が悲しみを誘う演奏です。
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