「フィールドデザイン」という考え方
例えば自然の中で「いいな...」と感じた風景をスマートフォンの画角に切り取って撮影する。
水辺に降りて流れのほとりにある小石を別の石の上に何段かそっと重ねてみる。
山道で出会った名前も知らない花をポケットサイズのスケッチブックに鉛筆で簡単にスケッチする。
臨床に降り積もる枯れ葉を数枚手に取って小さなコサージュに仕立ててみる。
あるいはただ森の片隅や川縁、山の稜線の一角に腰を下ろして目の前の風景をぼんやり眺める。
そして何より、風景であれ、花であれ、目の前の梢でさえずる小鳥であれ、「おや、」と思って印象に残ったものをいつまでも心に留めておく。
そんな単純な行為や想いが「フィールドデザイン」の原点です。
自然はただダイナミックな生命の循環としてそこにあるだけです。
そこに美を見出すのは人が自然を多少なりとも優越的な立ち位置で相対化したからに過ぎません。
私たちの視座こそが自然の中に美を作り出すのだと思います。
自然は山や奥深い森や渓谷のみにあるのではありません。
都市には都市の自然があり、そこにも美しいと感じる要素は偏在します。
できれば気に入ったテーマを見つけてそれを被写体にしたり、その場所に通い詰めたり、より深く理解するために学んだり。
それらの行為が対象となるものとの打算のない相互利害にまで昇華すれば、それはそれでより豊かなフィールドデザインへとつながってゆくでしょう。
今地球上に生きる全ての生物種は38億数千万年前の太古の海で誕生したった一つの生命の子孫です。
私たちの体を形作っている細胞のそれぞれにはそのたった一つの生命から続いてきたゲノムという情報が壮大な物語として記録され、全生物種がそのほとんどの部分を共有している事をご存知でしょうか。
どんな些細な行為であれ、自然を見つめ、それをよりよく理解し、日常生活の糧とすること。
「フィールドデザイン」という視座が多くの人に共有されることも気候変動を始めとする課題解決へのささやかな一歩だと信じています。
フィールドデザイナー
橋詰 博史 (はしずめ ひろし)
1956年山梨県生まれ。
武蔵野美術大学油絵学科卒
2001年 フィールドデザインスタジオ メドゥスケープ 設立
2010年 登山ガイド事務所 フィレストフィールズ設立(休業中)
資格/ (社)日本山岳ガイド協会認定 登山ガイド(ステージⅡ)