アトリエの片付けではLPレコードの他にも画集や作品展のカタログ整理も一仕事。当時は興味をもった画家や作家の画集はわざわざ東京まで出かけて購入したり、展覧会が開かれればやはり出かけて行ってそのカタログを求めたものです。無論学生の時になけなしの小遣いをはたいて買った古書の画集なども含まれますが、それらのほとんどは安価な普及品ばかりで、やはり後年多少余裕ができてから購入したものの方が思い入れは深いですね。
これらを一冊づつ改めて目を通しているとまず作業が進まないので、画家別やテーマ別に大雑把にまとめて手作りの書架に放り込みました。それにしてもその量は思ったほどではなく、美術への思い入れもこんなものだったかと多少落胆したり反省したり。永きに渡るブランクとは恐ろしいものだと改めて感じたひと時でした。
高校生の時に竹橋の近代美術館で初めて開催されたたアンドリュー・ワイエス展を見て圧倒されて以来、できうる限り日本にあるコレクションを見に行ったり、手に入る限りの画集を買い求めたり、随分影響されたものです。ひとつだけ心残りなのはきっかけとなった最初の展覧会のカタログを購入しなかったこと。理由は覚えていませんが、当時としてはそんな余裕もなかったのでしょうね。
その後西欧の古典に傾倒した時期が長く続き、アメリカを中心とした抽象表現主義の作家や象徴主義の画家達へと興味が移った時期もありました。この棚は画家を中心に並べていますが、バルテュスやオキーフは山梨に戻ってから親しんだ画家達です。
やはり山梨に戻った頃ヨーゼフ・ボイスが日本に紹介され、ドイツでの緑の党の結成にも関連して、当時の政治的な運動を背景とした美術の新しい在り方が問われ始めました。いわゆる現代美術が絶頂期で、各地に専門の美術館も建てられ、ここ清里の地にもボイスの個人コレクションを中心とした現代美術館ができたのもその頃です。一言でいえば個人や企業、行政も美術に投資できる余裕がおおいにあったバブリーな良き時代だったといえるでしょう。サイ・トォゥンブリ、アンゼルム・キーファー、アバカノビッチ、ダグ・アンド・マイク・スターン、加納光男、若林奮などの名前も見えますね。
モダン建築やランドアートに興味を持ち始めたのもこの頃で、コルビジェやダニ・カラヴァンのカタログも並んでいます。
相前後してランドアートに大きな影響を受けました。リチャード・ロング、アンディ・ゴールズワージー、ハミッシュ・フルトン、マイケル・ハイザー、デイヴィッド・ナッシュ等、イギリス出身の作家が多いですが、バードウォッチングやフライフィッシングを通してアウトドアにも傾倒し始め、自然との関わりを深めていた時期には半ば必然ともいえる嗜好だったといえるかもしれません。