海辺に住んでいる人はともかく、海に隣接する県に住まない者にとっては、登った山の頂から海が見渡せるということは何か特別な感興を呼び起こすものだ。
特に意識せずに登った高山の頂から思いがけず視界の端に湾曲する海岸線と薄青く広がる海面や逆光に輝く水面を認めると、あっと思うと同時に何か随分得をした気にさせられることがある。
こんな時は普段山国に住む身であっても、実は島国の住人でもあったとことを改めて思い起こす瞬間でもあるのだ。
先週末は仕事とその下見も含めて四日間続けて丹沢の山を歩いた。
丹沢山塊は首都圏に近く、その山襞には多くの沢が刻まれ、標高の割には急峻、という登山の入門ゲレンデとしての評価だけではなく、広範囲に林立する好展望の峰と縦横に交錯する尾根路や谷路のバリエーションが独特の存在感を放つことによって多くの「丹沢ニスト」を生む山として知られる。
今回も知り合った登山者にその人の友人で毎日登っている人が居るという話も聞いた。
また突出した高峰が無い分富士を初めとして箱根の山々、伊豆の山々等周囲に多くの山岳を数えることが出来る展望の素晴らしさ、相模湾を始めとして三浦半島や江ノ島、房総半島までも見渡せる立地もその魅力の一つであると再認識させられた今回の山旅でもあった。
初日は早朝出発の予定が、起きてみたら予期せぬ積雪で気分が萎え、何となくずぐず出かけたので、道志方面の登山口から歩き出したのは11時を回ってから。
すれ違う登山者全員から「今日は蛭ヶ岳泊まりですか」と聞かれ、「ええまあ」とか「行ける所まで」とか適当に答えながら、結局は蛭ヶ岳直下で引き返すはめになってしまった。
足に撚りを掛けて何とかヘッドランプのお世話にならずに下山出来たけれど、あまり感心したことではない。
ただ八丁坂の頭付近から見た横浜方面の市街地とその先に広がる港が夕方の鈍い冬日を浴びて淡くオパール色に染まり、その手前に落ちる丹沢山塊の青い影とのコントラストを形作って穏やかに美しく、とても印象的だった。
翌日は登山口手前の大倉林道車中泊と早朝出発のおかげで何とか不動の峰まで往復。
塔ノ岳からの相模湾の輝きと雪に覆われた富士の姿も文句無く素晴らしいものであった。
「姫次」のブナ。ここは東海自然歩道の最高地点でもある。
日向の路。
日陰の路。
蛭ヶ岳遠望。北面は終日樹氷が融けない。
横浜方面の夕景。街も遠くから見ると美しいものだ。