食わず嫌い。
子どもの頃からかなりの偏食で、今になってもその傾向は幾らか残っている。
といってもこれは食の話しではない。
本屋に行くと、それが大きな書店であればあるほど何を買っていいものか迷ってしまう経験は誰にもあると思う。
余程はっきりとした目的のものがあれば別だけれど、何となく入ってそのまま手ぶらで出てくることも屢々。
ジャンルについても同じで、漠然とした抵抗感があってSFものはほとんど読んでこなかった。
つい最近まで…。
興味を持っている「山書」といわれる山岳紀行や研究書、山岳や自然をテーマとしたエッセイ・小説などでもテーマや著者によっては手に取ることもなかったものも意外に多い。
「邂逅の山」もそんな一冊に挙げられる。
車山高原に建つ「ころぼっくるひゅって」の草創期が描かれているこの本には、今ではヴィーナスラインが真近に通る少し俗化した施設という先入観とは無縁の若い小屋番の家族の初源的な清々しさと力強さに満ちた山上の物語が綴られている。
著者でありオーナーでもある手塚宗求さんの静かな熱情を感じさせる文章がいい。
主に「アルプ」に掲載されたというエッセイには戦後間もない高地開拓者に共通する簡素な暮らしの中に、試練に耐える反骨と絶えることのない理想が豊かな自然を背景に生き生きと息づいている。
新版「邂逅の山」 平凡社ライブラリー ¥1200
村上春樹の代表作「ノルウェイの森」。韓国人監督によって映画化され、今年公開された。
映画はまだ見ていないけれど、小説は久し振りに読み返してみた。
この作品以前からの村上読みを自認するものにとって、当時この「ノルウェイの森」の評価は二分したように記憶しているけれど、異常な盛り上がりを見せた「ノルウェイの森」現象にはほとほと嫌気がさしたのを覚えている。
村上春樹の作品に低通する「リアルな視座からのクールな諦観」というものが薄れ、どことなくセンチメンタルな喪失感が前面に出た私小説的な世界観が苦手だという印象がどこかにあったのかもしれない。
(読み返してみたらそうでもなかった)
「遠い太鼓」は村上春樹が三年間イタリアに居を構えて「ノルウェイの森」「ダンス・ダンス・ダンス」を執筆する時期の滞在記、旅行記をまとめたもの。
ギリシャやイタリア、その他ヨーロッパを旅行しながら、それぞれの土地の人間や食べ物、エピソードをわりとユーモラスに描いていて面白い。
「イタリアのいくつかの顔」中の「トスカナ」は同様の思い出を持つ者にとって特に印象深く、共感できる内容のひとつともなっている。
「遠い太鼓」講談社文庫 ¥800